この日は、東京をはじめ山形、新潟、名古屋、滋賀、大阪といった全国各地から参加者が集まった。
セミナーではまず、武吉先生が「武吉塾」第17期(約4カ月・全15回)の添削を終えての総評として「中文和訳のいくつかの要点」と題して講演した。
その中で武吉先生は「原文の単語を削る」ことが大事だとして、いくつかの例を挙げながら直訳とこなれた訳をそれぞれ比較。例えば直訳の「夫妻は現地に到着してから車を借りて自分で運転する方式を取ることに決めた」と、こなれた訳の「夫妻は現地でレンタカーを利用することにした」の2つを比べ、「中国語は厳密に表現するが、日本語は以心伝心(でスッキリと表現する)」と、日中2カ国語の違いとその特徴をわかりやすく伝えた。
また、「原文の単語をそのまま使わない」として、中国語原文の「旅行的自由度」を、「旅行の自由度」という直訳ではなく、「自分の思い通りにできる旅」と意訳する翻訳の極意を伝授。
その上で、訳文を自然に「日本語らしい文章」にするため、「特に初心者は、新聞を毎日よく読み、できれば気に入った一節を書き写すこと」「適当な短文を選び、『固有名詞以外は原文の単語を一切使わない』で訳してみること」などを一つの試みとしてお勧めしたいと呼びかけた。
会場の参加者たちは、度々メモを取るなどして熱心に聞き入っていた。
続いて第5回「翻訳新人賞」の授賞式が行われ、このほどデビュー作となる翻訳書籍を刊行した町田晶さん、黒金祥一さんにそれぞれ同賞が贈られた。
町田さんは、タオイズムの教えを現代に活かし、アメリカの名門大学で人気を呼んだ伝説の講義をまとめたチーグアン・ジャオ著『悩まない心をつくる人生講義―タオイズムの教えを現代に活かす―』を翻訳した。同書には、元国連事務次長の明石康氏が推薦の言葉を寄せている。
◆『悩まない心をつくる人生講義』 http://duan.jp/item/215.html
また、黒金祥一さんは、近代中国を代表する文学者、豊子ガイの児童文学全集の最終第7巻で、作家が愛する子どもたちへの思いあふれる随筆集『中学生小品』を翻訳。続いて、近現代中国の名記者400人を史上初めて記録した好評シリーズ『中国名記者列伝』の第2巻(今年4月に刊行予定)を翻訳するなど、健闘した。
◆豊子ガイ児童文学全集第7巻『中学生小品http://duan.jp/item/191.html
◆『中国名記者列伝』第2巻 http://duan.jp/news/jp/20170123.htm
(書籍はいずれも日本僑報社刊。ガイは、りっしんべんに豈)
続いて、この日出席した町田さんが、貴重な翻訳体験談を披露。よくわからない人名や固有名詞が出てきた際には、日本や中国の検索サイトを駆使してとことん調べる……といった徹底した翻訳姿勢を明らかにした。
続く懇親会では、和やかな雰囲気のもと参加者たちのあいさつや近況報告が行われた。
そのなかで、武吉先生が「『武吉塾』はこれで第17期をぶじに終えたが、今後は20期を一区切りと考えたい」と提案すると、参加者からは「20期といわず、ぜひ長く続けてほしい」と要望が続出。そこで武吉先生は「20期を迎え、その時になお元気であれば、皆さんと一緒に勉強を続けたい」と指導意欲を新たにされた。
それを受けて、日本僑報社の段躍中編集長がさらに提案。
「来年の秋、『武吉塾』が20期を迎えるのを記念して、受講生たちの記念文集を制作したい。それをもって武吉先生への“恩返し”にするとともに、皆さんの経験を後世に伝えたい」と斬新なアイデアを語り、参加者たちに「企画実現の際には協力を」と呼びかけた。
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