セミナーではまず、武吉先生が「武吉塾」第15期(約4カ月・全15回)の添削を終えての総評を踏まえ「日本人と中国人、ここが違う」と題して講演した。
それによると、日本人と中国人の特性として、総体的に日本人は「大和民族の島国、タテ社会、職人、あいまい好き、歴史を忘れやすい、細目にこだわる、思考が単純……」などであるのに対し、中国人は「多民族の大陸、コネ社会、商人、率直好き、歴史を重んじる、大局的に把握する、思考が老獪で冷徹……」などの性質がある、と紹介。
言語の面では、日本語は「あいまい・客観的・自然発生的・情緒的」であるのに対し、中国語は「明快・主体的・能動的・論理的」である。こうした違いをよく理解した上で日中翻訳に役立ててほしいと、「友好は易し、理解は難し」という現代中国研究で知られた故竹内実氏の言葉を紹介しながら、受講生に呼びかけた。
また、武吉先生の最新刊で「武吉塾」の授業内容を凝縮し、受講生たちの翻訳レベルアップにも役立つ『日中中日翻訳必携
実戦編2』(日本僑報社刊)が紹介された。
続いて第4回「翻訳新人賞」の授賞式が行われ、受賞者(9人)のうち、この日出席した中西真さん、脇屋克仁さん、重松なほさんがそれぞれ貴重な翻訳体験談を披露した。
中西さんは、中国発展のメカニズムを紹介し、その国づくり90年を振り返る、程天権著『日本人には決して書けない中国発展のメカニズム』(同社刊)を翻訳した。これは中西さんの書籍翻訳の第一作となった。
中西さんは今回、原文が80ページ余りという自身さんにとって「生まれて初めての超大作」に取り組み、「訳語の統一」や「中国語に引きずられない」「日本語のボキャブラリーを増やす」などの点で苦労と工夫を重ねたという。
時々「どうしても日本語に訳せない」といった翻訳の壁にもぶち当たったが、そうした中で昨年夏の「武吉塾」公開セミナーに参加。
「先輩訳者の苦労談等を伺ううちに、みんな同じ悩みや恐怖と戦ってきたんだと、翻訳を続ける勇気をもらった」。先輩や仲間たちの真摯な姿に後押しされたと、感謝の気持ちを述べていた(下記参照)。
脇屋さんは、中国文学賞の最高峰「魯迅文学賞」を受賞した作家、孟繁華著の『現代中国カルチャーマップ──百花繚乱の新時代』(同社刊)を、松井仁子さんとともに翻訳した。いずれも書籍翻訳を担当したのは、今回初めて。
脇屋さんは本書の翻訳にあたり、「問われたのは訳者の『読む力』だった。今回の翻訳を通じて、訳者は最もすぐれた読者でなければならないという思いを新たにした」と強調。その上で、訳者には「自分自身の知的資源と思考力をフル活用してとことん著者にくらいつき、著者と格闘する」力である“読む力”が人一倍求められると、「自戒を込めて」書籍翻訳におけるキーポイントを明らかにした。
また重松さんは、古代から現代までの中国人を把握する、北京大学教授・宇文利著の『中国人の価値観』(同社刊)を翻訳した。重松さんも書籍翻訳を担当したのは、今回が初めてだった。
本書の翻訳については「中国の歴史・文化を総復習でき、とても勉強になる作業」だったと振り返った上で、文章を推敲する過程においては時間の制約もあり、「武吉先生が指導される『こってり中華』から『さらさらお茶漬け』に、というなめらかな日本語までいかず、固めのごはんぐらいかなと思います」とユーモアと謙遜を交えながら、翻訳の出来について率直に告白。その上で、「今回の反省を生かして、これからも精進していきたい」と新たな抱負を述べていた。
公開セミナーではこのほか、日中翻訳学院から出版翻訳の進展報告や新規翻訳書の紹介などが行われた。
続く懇親会では、和やかな雰囲気のもと出席者全員がそれぞれ近況報告をしたほか、よりよい翻訳のノウハウなどについて自由に意見を述べ合った。
なお日本僑報社ではこの日、行われた武吉先生の講演「日本人と中国人、ここが違う」が大変好評だったことを受けて、「このテーマについて特別チームを発足し、単行本にまとめて刊行したい」としている。
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